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「崇灰の鴉と僕」 ① 平行線

僕の恋人は、「鴉」という。

鴉の首からは、いつも同じものがぶら下がっている。

銀色のネックレス。
丸くて大きな重そうなのが付いたやつ。
パカッと開くようになっていて、その中には三つのものが入っている。

鴉が愛したという女が書いた、手紙。
その女の骨。
そして、その女が血まみれで、倒れている、写真。

その写真は、鴉が撮ったのだという。






「入っていい?」

「どうぞ」

僕の問いに、鴉はそっけなく答える。
鴉の入っている湯船にそっと入ると、お湯がふわっと溢れ出し、ざばあ、という心地よい音が流れる。
湯船は狭くて、僕の膝と鴉の膝が触れる。
嬉しくて顔を上げると、鴉はいつものごとく、どこか遠くを見ている。
僕なんて見ていない。
いや、違う。
僕なんて、いないんだ。

セックスをした後だけ、僕は鴉と一緒に風呂に入れる。
普段は絶対嫌がるんだけど、セックスの後は、早くその匂いを消してしまいたいらしい。
自分の体からも、僕の体からも。

「明日は、休みなんでしょう?」

「うん、まあ」

「どうするの?」

「さあ、別に何も考えてないけど」

「そう」

「お前は、学校だろう?」

「うん」

鴉は、やっと、やっと僕を見た。
最初は横目で、でも、暫くして、正面から。

ああ、僕は、存在していたんだ。

「お前、真面目だよな。学校、全然休まねえし、バイトもガッツリして、家の事もちゃんとするしな。」

「そうかな。」

「うん。俺なんて、学校なんか全然行ってなかったぞ。」

「そうなんだ。…ていうか、学校行ってた鴉なんて、全然想像出来ないけど。」

ずざあ。
湯の音をたてて、鴉は立ち上がり、湯船から出る。

僕の目の前には、綺麗な尻。

男の裸は、綺麗。

僕は、そう思う。
だから、女である自分の、脂肪に覆われた体が、とても恥ずかしい。

「俺はな、お前が思ってるより、うーんと普通だ」

鴉がドアを開けて、外から、湿り気の少ない、冷たい空気が流れ込む。
思わず、目を細める。

「変わってんのは、お前だよ」

突き放すようにそう言うと、鴉は風呂場から消えた。






鴉は、写真を撮る事を仕事にしていて、常にカメラを持っている。

だから、あの女が死んだ日も、やっぱりカメラを持っていたんだって。

海外での仕事を終えて久々に家に帰ったら、夜なのに家の中は真っ暗で、奥の寝室から、大音量でベイビー・シャンブルズの曲が流れていて、何だか嗅いだ事のある嫌な匂いも流れてきて、鴉は寝室のドアを開け、慌てて電気を点けた。

それは、今まで見た中で、一番美しい光景だったという。

部屋は、天井から床まで、隙間無く白い布で覆われていて、でも、もう既に白はほとんど白の役割を果たせていないぐらい、色々な所が赤く染まっていた。

白いシーツの上。
赤く染まった女。

混乱する頭は、整理がつかずに、気がついたら、シャッターを押していた…。


家で酒を飲む度に、鴉はこの話をする。

本当は、そんな女にはちっとも興味が無いけれど、鴉の話だから、僕は聞く。
真剣に。
一つ一つを思い浮かべながら。

血の匂い。
赤さ。
女の髪の長さ。
表情。

鴉の、気持ち。


鴉は、その日起こった事を、その時の女の状態を、そして、そうなる迄に過ごしてきた女との時間全てを、絶対に死ぬまで忘れない、忘れたりしない、と僕に言う。

「だから、俺は、絶対にお前を好きになったりしない」

力強い目をして、そんな事を言う鴉に、僕は言う。

「僕は、絶対に鴉を嫌いになったりしない」

僕たちの気持ちは、きっと一生、平行線だ。

だけど、それを嫌だとは思わない。

交わる事に価値があるなんて、一体誰が決めたんだ。

平行線のまま、一生並んで終われたら、僕はそれでいい。
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egorock215

Author:egorock215
ego-rockという劇団で作・演出しています。
淫れ菩耽とかいう名前で、怪しげなショーもどきもやっています。

台本を書く人がいなくて困っている劇団の方、その他諸々、文章を書くことなら何でもやりますので、声をかけてやって下さい。

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