スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「崇灰の鴉と僕」 ③ 欠片

空は薄く曇っていた。

風はほとんど吹いていなくて、でも空気はとても冷たい日。

僕は珍しく、ワンピースを着ていた。

唯一持っているワンピース。
それは、喪服。


その日の3日前、姉が死んだのだ。

両親の代わりに僕を育ててくれた、15歳上の姉。

交通事故だった。

僕はただ、周りに言われるまま葬儀を行い、何も感じることも考えることもないまま、
3日間を過ごしていた。


二人で暮らしていたアパートに戻る気にはなれず、
かといって、どこにも行くあてはなく、僕はふらふらと歩き続けていた。

心は、無だった。

これからのことも、今のことも、何も分からなかったし、考える力もなかった。

ただ、立ち止まると死んでしまうかの如く、ふらふらと歩き続けた。


いつの間にか知らない町を歩いていた。

人気の無い住宅地で、木には一つの花も咲いておらず、今が冬なんだって事を、僕はふと思い出した。


何の音も聞こえてこなかった僕の耳に、突然一つの音が聞こえた。

その音はとてもシャープだった。

また、同じ音が聞こえた。

僕は、その音が鳴る場所を探した。


少し先、道路の隅にしゃがんだ男。

その男の手から、その音は鳴っていた。

僕は立ち止まって、その男をじっと見ていた。

シャープな音が、その男から聞こえる。

空っぽな僕の心に、その音が突き刺さる。

突き刺さる。

突き刺さる。


無だった僕の心が、その音に合わせて、だんだん動き始めた。

思い出したのは、姉の顔や言葉ではなく、自分が姉に発してきた言葉や態度だった。

どれも、ろくでもないものに思えた。

もっと、違う言い方があっただろう。

もっと、違う態度があっただろう。

もっと、出来ることがあっただろう。

もっと、もっと、もっと…。

もっと、幸せになれるはずの人だったのに。
僕がそれを妨げていたんだ。

僕は、なんてろくでもない。

僕は、なんてつまらない。

僕は、なんて、汚いんだ。

僕は、僕は、どうしようもなく、一人ぼっちだ。


音が止まった。

男が少し、体を動かした。

手にはカメラ。

写真を撮っているのだと、ようやく気づいた。


「何を撮ってるの?」


信じられないことに、話しかけていた。

知らない人に話しかけたことなど、一度だって無かったのに。


「壁と、地面」


低い声だな、と思った。


「どうして、そんなもの撮るの?」


男が、僕をゆっくりと見た。

光を受け取っているとは思えないような、黒い目だった。


「ここ、欠けてるから。」


確かに、壁の一番下が、少し欠けていた。

その欠片が、地面に転がっている。


「自分みたいだなって、思って。」


そういって、男は、その欠片を踏んづけた。

力いっぱい。

そのまま、僕をもう一度見ることもなく、背を向けて歩き出した。


去っていく男の後姿と、踏まれた欠片を見て、僕の中で何かが弾けた。

自分が踏まれた欠片のような気がしたし、自分が欠片を踏んだような気もした。

悲しくって、虚しくって、寂しくって、でも心はそんな想いでいっぱい過ぎて、はち切れそうに膨らんでいた。


聞いたことのない声が聞こえた。

低くて、大きくて、物凄く震えている。

それが、自分の声だと気付いた時には、もう遅かった。

涙が止まらなくなっていた。

このまま、永遠に泣き続けるんだ、自分は。

そして、死んでいくんだ。

その気持ちがまた膨らんで、また涙が出る。


「うるせえ。」

顔を上げると、黒い目が私を見つめていた。

「汚い顔だな。」

そう言って、シャツの袖で僕の顔を乱暴に拭いた。

「泣いてもな、死んだ人間は帰ってこないんだ。だけど、俺が…、お前が生きてれば、お前の頭の中でそいつは生きていくことが出来るんだ。多分な…。」


男は、また僕に背を向けようとした。

その瞬間、思わず僕は男のシャツの袖を引っ張った。

「名前、何ていうの?」

「…鴉。」

「カラス?」

「そう。その名前で、写真撮ってる。」

「僕は、アイリ。鈴木愛梨。」

「お前、名前と見た目が合ってないな。」

「鴉。お願いがあるんだ。」

「…何だよ。」

「僕と、一緒に生きていってほしい。」

鴉は、目を大きく見開いた。

「お前、アホだろう。」

鴉は、僕の手を振り切って、歩き始めた。

僕は、また泣きそうになったけど、それを堪えて、鴉の背中を追って走った。


僕と鴉は、そんなふざけた出会いをし、僕は鴉に一生付いていく事を決めた。
スポンサーサイト

Trackback

Comment Form

管理者にだけ表示を許可する

Comment

プロフィール

egorock215

Author:egorock215
ego-rockという劇団で作・演出しています。
淫れ菩耽とかいう名前で、怪しげなショーもどきもやっています。

台本を書く人がいなくて困っている劇団の方、その他諸々、文章を書くことなら何でもやりますので、声をかけてやって下さい。

最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
カテゴリー
ブログ内検索
RSSフィード
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。